養老軒の素材の旅

豊かな渋みと風味の名脇役

抹茶  愛知県西尾市

三河の小京都で育まれた700年の歴史

愛知県南部のほぼ中央に位置する西尾市。三河湾を望み、温暖な気候に恵まれ、農産物の生産が盛んで三河の小京都とも呼ばれています。市内には足利義氏が築城した西条城をはじめ、多くの神社仏閣が点在する落ち着いたたたずまいが残っています。

西尾市で茶葉栽培が始まったのは、今から約700年前。鎌倉時代にある僧侶が、宋(中国)から持ち帰った種を実相寺の境内にまいたのが始まりとされています。明治時代に本格的な栽培が始まり、やがて食品加工に適した抹茶生産へと応用する道が開かれ、今や全国生産量の約30%を占めています。茶道文化を支えた抹茶は、和菓子からチョコレート、パン、アイスクリームなどその可能性は広がり続け、今や世界中へ輸出する抹茶の一大産地として「西尾の抹茶」の名をとどろかせています。

肥沃な大地と温暖な気候に恵まれ

大正時代になると、抹茶の原料となるてん茶の栽培が本格的に始まり、約100ヘクタールにわたって稲荷山一帯に茶園が広がりました。市内にある茶園は、主に勾配のある三角州に位置していて、茶葉に適した水はけの良い土壌と矢作川からの川霧が茶葉に潤いを与えることで、苦味や渋みが少ない上質な茶葉を生み出すといわれています。

気候条件だけでなく、その独特の栽培法も影響していて、茶園全体を囲むように組み立てられた棚に黒い被覆素材で茶葉を覆います。こうすることで、深いコクと鮮やかな発色を生み出します。

養老軒が使用する抹茶は、稲荷山のほど近くに本社を構える葵製茶。大正初期から茶葉栽培を手掛け、高品質で安全性の高い茶葉の製造に積極的に取り組んでいる老舗メーカーです。

ゆっくり時をかけ、熟成が生み出す香りと甘み

「夏も近づく八十八夜・・・」で始まる唱歌にもあるように、2月4日の立春から88日目を過ぎた5月初旬に茶摘みが始まります。茶葉は、最高級茶葉である新芽とその下の2枚の葉のみの一芯二葉などを摘み取る手摘みと、機械摘みに大別されます。

煎茶は、新芽を摘採後に蒸した後、乾燥しながら針状に揉み込んでいくのに対して、抹茶の場合は、新芽を蒸した後、揉み作業をせず、じっくりと葉の形を維持したまま乾燥させ、茎や葉脈を取り除いたてん茶を一定の温度や湿度で保管し、熟成させて味に深みを出していきます。

茶師と呼ばれる専門の職人が、いつ飲んでも変わらぬ味を楽しめるように、てん茶の色や香り、風味などを確かめ各製品に適したブレンドを行い、出荷する直前に、石うすでゆっくり丁寧に抹茶へとひき上げます。それにより鮮やかな発色と、ほど良い苦味と抹茶特有の甘い香りが際立ち、お点前だけでなく、甘いお菓子のアクセントとして存在感を発揮します。

葵製茶は、長年の技術と高い品質と安全性でISO22000の認証を取得し、さらに高度な食品安全マネジメントシステムFSSC22000の国際規格を保持しています。5代目で代表取締役の本田忠照さん(写真左)は「これからもこの味わいと世界基準の安全性に対応していきたい」と力を込めます。

抹茶の深い味わいが広げる可能性

養老軒は和菓子との相性が抜群で苦味が少なく、うまみと香りが高いお薄茶「松寿の白」をはじめ、大福やどら焼き、ロールケーキなど多くのお菓子で葵製茶の上質な抹茶をふんだんに使用しています。抹茶とチョコレートを組み合わせたソースに様々なお菓子をつけて味わう「和フォンデュ」などほろ苦さと豊かな香りで、年齢を問わず好まれる欠かせない名脇役です。

今や世界中の人々が親しみ、国境を越え愛されている「MATCHA」。豊かな自然環境に恵まれ、西尾の人々が長い時間と英知を注ぎ、育んできた一枚の茶葉に込めた思い。その可能性は、新たなステージへと高まり、これからもおいしいひとときを運んでくれるに違いありません。